睡眠は何時間必要か ― 日本の睡眠ガイドと科学的根拠が示すこと
6時間でしょうか。7時間でしょうか。それとも8時間でしょうか。
この答えが大切なのは、睡眠不足が習慣になると、健康上のリスクと関連するからです。ただ、公的な推奨は一見ちがって聞こえることがあり、数字には背景を添えて読む必要があります。
日本の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」と米国の主要な共同声明を比べ、それぞれが実際に何を述べているのかを見ていきます。
日本のガイドは何を勧めているか
厚生労働省は、成人に必要な睡眠時間には個人差があるとしたうえで、6時間以上を目安にすることを勧めています。
この文書が「指針」ではなく「ガイド」という名称なのは、「指針」という表現が、全ての国民が等しく取り組むべき事項だという誤解を与えかねないためだと説明されています。
ガイドは、成人ではおおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間だとしています。また、6時間未満で睡眠が足りる人もいれば、8時間以上必要な人もいると述べています。
さらに、自己申告の睡眠時間にもとづく複数の調査で、睡眠が約7時間の人の生活習慣病、うつ病、全死亡のリスクが最も低かったと紹介しています。
つまり、6時間以上は実践的な目安であって、6時間あれば誰にとっても十分だという保証ではありません。
米国の推奨は何を述べているか
2015年、米国睡眠医学会と睡眠研究学会は、共同のコンセンサス声明を発表しました。健康な18〜60歳の成人に対し、最適な健康のため、毎晩7時間以上の睡眠を習慣的にとることを推奨しています。
声明は、7時間未満の睡眠が続くことは、健康への悪影響と関連するとしています。15人の専門家が、睡眠時間の区分ごとに、健康にとって適切かどうかを投票で評価しました。専門家パネルは、6時間以下では最適な健康を支えるのに適切でない、という点で合意しました。
推奨を18〜60歳に限った理由には、睡眠時間が年齢によって異なること、そして高齢者では病気の影響で根拠の解釈が難しくなることがあります。
声明はまた、必要な睡眠量が、遺伝、行動、医学的要因、環境によって異なることも認めています。
根拠は実際に何を示しているか
日本のガイドは、自己申告による複数の調査で、約7時間でリスクが最も低かったと紹介しています。米国のパネルは、健康な18〜60歳にとって適切と推奨できる最短の時間を、7時間と結論づけました。二つの結論は矛盾しませんが、同じ主張ではありません。
多くの疫学研究は、ふだん何時間眠っているかを本人に尋ねています。自己申告の睡眠時間は、客観的に測った睡眠時間より長くも短くもなりえ、実際に眠っていた時間ではなく、寝床にいた時間を反映している可能性もあります。
米国のパネルが検討した疫学研究の多くは横断研究で、原因と結果を確かめることはできませんでした。たとえば、病気のために睡眠時間が変わることもあれば、別の要因が睡眠と健康の両方に影響することもあります。
長い睡眠も、一部の研究では死亡率の高さと関連していますが、米国のパネルは、長く眠ること自体の害ではなく、背景にある慢性疾患を反映している可能性が最も高いと判断しました。
ただし、因果関係を示す証拠がまったくないわけではありません。ダグラスらの遺伝学的研究は、短い睡眠が心筋梗塞を引き起こすという因果関係と整合する結果を得ています。ただし、この研究は英国バイオバンクなどのデータを用いた遺伝学的解析であり、すべての病気や集団で因果関係を確立したものではありません。
大切なのは、観察された関連と証明された原因とを区別し、それぞれの結論がどのような証拠に支えられているかを考えることです。
休めた感覚はなぜ大切か
睡眠時間は、全体の一部にすぎません。日本のガイドは、睡眠休養感、つまり睡眠で十分に休養がとれていると感じられるかどうかも重視しています。
2020年に発表された日本の観察研究では、健診と診療記録のデータベースに登録された約200万人が調べられました。睡眠で休養がとれていると答えた人では、その後の心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動の発症が少ないという関連がみられました。対象者の平均年齢は約45歳で、すべての年代を代表する結果とそのまま考えることはできません。また観察研究なので、休めたという感覚そのものが心血管病を防いだとは証明できません。
2022年に発表された二つ目の研究は、米国のスリープ・ハート・ヘルス研究のデータを用いました。中年の参加者について、一晩の睡眠検査で睡眠を客観的に測り、翌朝、その夜にどれだけ休めたと感じたかを尋ねています。
測定した睡眠が最も短く、しかも休めなかったと感じた人では、基準とした群よりも、その後の死亡リスクが高くなっていました。ただし、この休養感の評価はその一晩についてのもので、ふだんの生活でどう感じているかではありません。一晩の測定は、習慣的な睡眠のパターンと同じではない、という区別が大切です。
最後に、21〜38歳の健康な成人を対象とした実験研究では、睡眠を2週間制限すると、認知機能の検査成績の低下が積み重なっていきました。一方で、本人が感じる眠気は、測定された成績の低下ほどには増えませんでした。つまり、短い睡眠に慣れたと感じていても、能力まで十分に慣れているとは限りません。
睡眠時間、休養感、日中の調子は、それぞれ違うことを教えてくれます。どれか一つだけで、睡眠を十分に評価することはできません。
健康情報の読み方の教訓
ここで、一つ注目しておきたい食い違いがあります。日本のガイドは、米国の声明が6〜10時間を含む範囲を許容していると紹介しています。しかし、ガイドが引用している論文は、それを合意された推奨としては支持していません。
米国のパネルは、6時間以下は不適切だという点で合意しました。6〜7時間の区分については合意に至らず、投票の中央値は不適切の側にありました。最終的な推奨は、健康な18〜60歳に対する7時間以上でした。
この食い違いだけからは、なぜ表現が異なるのかはわかりません。教訓はシンプルです。ある文書が別の文書を要約しているときは、原文が実際に何と書いているかを確かめることです。
結局、睡眠は何時間必要か
多くの成人にとって、習慣的に7時間前後かそれ以上を目指すのが、妥当な出発点です。
日本のガイドは、個人差を認めたうえで、少なくとも6時間を目安にするよう勧めています。米国の共同声明は、健康な18〜60歳に7時間以上を推奨しています。示し方は異なりますが、どちらも、習慣的な睡眠不足を軽く見てはいけない理由を示しています。
休めたと感じるか、日中にどう過ごせているかにも注意を向けてください。こうした手がかりは大切ですが、調子がよいと感じていても、睡眠不足の影響がないとは限りません。
眠れない日が続く、十分な時間をとっても休めた感じがしない、日中の強い眠気がある、という場合は、医療機関に相談することを考えてください。
目指すのは、誰にでも当てはまる一つの数字を見つけることではありません。根拠をもとに、睡眠についてよりよい判断をすることです。